東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9063号 判決 1978年1月24日
原告
川本真理
右法定代理人親権者父
川本陽一
右同母
川本恵美子
原告
川本陽一
原告
川本恵美子
右原告ら訴訟代理人
土谷明
被告
佐藤昭次
右訴訟代理人
逸見剛
主文
一 被告は、原告川本真理に対し、金七七万円及び内金七〇万円に対する昭和五一年一一月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告川本陽一に対し、金六万八一八一円及び内金五万八一八一円に対する昭和五一年一一月一五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告川本真理及び同川本陽一の各その余の請求、並びに原告川本恵美子の請求は、いずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告川本真理に生じた分は、これを五分して、その一を被告の、その余を右原告の各負担とし、原告川本陽一に生じた分は、これを一七分してその一を被告の、その余を右原告の各負担とし、原告川本恵美子に生じた分は全部原告の負担とし、被告に生じた分は、これを二九分して、その一五を原告川本真理の、その五を原告川本陽一の、その五を原告川本恵美子の、その余を被告の各負担とする。
五 本判決は、右一及び二に限り仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
<証拠>を総合すれば、原告真理(昭和四一年一一月二三日生)は、昭和四九年一二月一四日午後二時頃、自宅の近所にある大野拓也方(東京都練馬区谷原五丁目三一番五号)前で、兄の川本幸司(昭和三八年一月一五日生)、同川本潤(昭和三九年一一月七日生)、右大野の子の大野優子(昭和四二年生)及び同大野直行(当時四歳位)と遊んでいたところ、右大野が右自分の子に金を与えてどこかで菓子を買つて来るように云つたこと、当時被告は菓子の製造販売業を営んでいたので、これを知つていた右川本幸司が被告方では菓子を安く買えると云つたため、直ちに、原告真理は、右子供らと一緒になつて右大野の子が被告方で菓子を買うのに同伴して、近くにあつた被告方(同都同区谷原五丁目三一番八号)へ出向いて行つたこと、ところが右同日午後二時半頃被告方附近において、被告が占有中の本件犬が突然原告真理に飛びかかつて、本件犬の爪で原告真理の顔を引掻き、これにより原告真理に対しその上口唇部の中央やや右よりあたりから鼻の下にかけて切創の傷害を負わせたことが認められ、<る。>なお、原告らは、原告真理は本件犬により左頬部にも挫創の傷害を受けた旨主張するところ、<証拠>には、原告真理の左頬に傷がある旨の記載があり、また<証拠>によると、原告真理の左頬に傷があることが認められるが、<証拠>によると、原告真理の右傷は本件犬により受けたものではないことが認められ、他に、原告真理が本件犬により原告ら主張の左頬部挫創の傷害を受けたことを認めるに足りる証拠はない。
二そこで、被告主張の抗弁(一)(被告が本件犬を相当の注意をもつて保管していたこと)について検討する。
(一) 本件犬は被告において「チビ号」と名付けた中型の牝の茶色の難種犬であることは当事者間に争いがなく、さらに、<証拠>によれば、本件犬(高さ三〇センチメートル位、長さ六〇センチメートル位)は、昭和四六年頃生れで、普段は獰猛ではなく本件事故前に人畜に危害を加えたことはなく、その性質は比較的温順で気の弱そうな犬であることが認められるところ、被告は、その本人尋問において、「本件事故当時、被告は、本件犬に首輪を付け、これについている鎖の先に麻のロープを繋ぎ合せて、これを被告方玄関入口から約二メートル三〇センチメートル位離れた所にある水道の柱に結びつけ、かくして本件犬を繋留拘束しており、右鎖等の長さから、右のとおり繋留された本件犬の行動範囲は人の出入りする被告方の玄関入口には達しないものであり、また被告は、一週間に二、三回位深夜本件犬を運動させていた」旨供述し、<証拠>(被告が昭和五一年一二月二〇日作成した図面)には、本件犬の右繋留状態が右供述のとおりであることや本件事故発生現場が被告玄関入口近くで、かつ、本件犬の右行動範囲内の所である旨の記載がある。
(二) しかしながら、<証拠>によれば、本件事故直後、大野拓也の前記子供らが同人宅に急いで帰つて来て、同人に対し、原告真理が本件犬に怪我をさせられたことを報告したが、その際右子供らは聞きもしないのに本件犬は放し飼いにされておつて、突然原告真理に飛びついた旨述べたこと、原告陽一は、本件事故の翌々日(昭和四九年一二月一六日)、東京都練馬区石神井保健所に本件事故を届出たが、その際本件犬が放し飼いにされている旨申告していること、これについて、同保健所は右の頃被告の方へ本件犬の繋留の厳守等を指示した(これについて被告の方から格別抗議の申し入れがあつた形跡はない)こと、本件犬は、本件事故の前にも、鎖をつけたまゝこれを引きずつて右大野方へ一度一人で徘徊して来たことがあり、また鎖をつけないまゝ被告方から外へ出て他の場所を一人で彷徨していたことがあることが認められること、<証拠>によれば、本件犬は、知つた親しい人には吠えないが、知らない人を見るとよく吠えることが認められるところ、原告真理又は本件事故当時被告方へ出向いて行つた前記子供らが本件犬を知つてこれと親しかつたことを認めるに足りる証拠はない(<証拠>によれば、原告陽一の長男の川本幸司は本件事故当時被告の長男の佐藤直行と同級生で被告方へ遊びに来たことがあり、また原告真理も被告方へ遊びに来たことがあることが認められるが、<証拠>によれば、原告真理が被告方へ遊びに来たのはわずか一、二度にすぎなく、原告陽一方と被告方とは普段は全く交際がないことが認められるので、原告真理やその兄らが本件犬をよく知つてこれと親しかつたと認定することは困難であり、さらに、本件事故当時原告真理と一緒になつて被告方へ出向いて行つた大野拓也の前記子供らが本件犬を知つてこれと親しかつたことを認めるに足りる証拠はない)ので、若し被告の前記供述のとおり本件事故当時本件犬が繋留されていたとすれば、本件犬は直ちに、繋留されたまゝで原告真理らの前記子供に吠えかかつたものと推認できるが、そのような場合には当時わずか八歳にすぎない女の子の原告真理としては驚いて容易に本件犬に近附かなかつたものと認めるのが相当であり、従つて、本件犬が繋留されていたならば本件事故発生はむしろあり得なかつたと考えられないでもないこと〔もつとも、<証拠>によれば、原告真理は、性格は女の子としては比較的きつく行動も活発な方で、動物には余り怖がらず、母の実家へ行つたときはそこで飼育されている犬と戯れることがあることが認められるが、前記認定の本件犬の体躯や、<証拠>によれば、本件犬は、原告真理のような低年令の女の子が吠えるのもかまわず、近附いてこれと戯れたくなるような愛くるしい様相を呈した犬ではないものと認められ、その上、原告真理は右のような性格の子ではあるとは云え本件事故当時は何と云つてもわずか八歳の低年令の女の子であるので、原告真理が本件犬が吠えるのもかまわずこれに近附くことはむしろあり得ないと考える方が自然である〕、<証拠>によれば、被告は、本件事故当時、妻と二人で前記被告方で大福餅や和菓子を製造してこれを卸売したりデパートの一角を賃借した自己の店で販売したりする(但し、近所の者にたまに売ることもある)商売を営んでいるところこの仕事に忙殺されて殆んど休む暇がない状況であつたこと、本件犬には、犬小屋も与えず、これを繋留する場所は、被告方の表玄関口の横の壁と前にある倉庫の壁との間の空地であつて、その附近には雑然と空箱などが放置されていること(右認定の状況からすると、本件犬は余り手厚く飼育されていないことが窺われる)が認められることなどを彼此考え合わすと、被告の前記供述のとおり、本件事故当時、本件犬が繋留されており、また被告が本件犬を深夜運動させていたということはまことに疑問であり、この点に関する被告の前記供述部分は採用し難い。ところで、本件犬については、過去に人畜に危害を加えたことはなくその性質が比較的温順であることは前記認定のとおりであるが、本件犬は前記体躯の雑種犬であるところ、一般に、この種犬は、その性質が温順でもその飼育主等の普段親しく寵愛されている者に対しては従順であつてこれらの者に対しては危害を加えたりしないものであるが、普段余り親しくない者(殊に幼い子供)に対しては時に狂暴性を発揮して危害を加えることがあることは経験則上明らかであるから、本件犬の飼主(占有者)である被告としては、本件犬の性質等が前記のとおりであるとしてもこれが繋留を怠つてはならず、これを怠つたかぎり、その保管につき相当の注意をなしたとは認め得ないといわなければならない。
(三) しかして、仮に被告が前記供述のとおり本件事故当時本件犬を繋留して、深夜運動させていた事実が認められるとしても、次の諸点を考え合すと、なお、被告において本件犬の保管につき相当の注意をなしていたと断定することは困難である。即ち、本件犬は、被告方においては余り手厚く飼育されておらず粗末に取扱われていたものと窺われることは前記(二)において認定のとおりであり、その上、被告は、前記供述のとおり、仕事に忙殺されて一週間に二、三回位に、しかも深夜にしか本件犬を運動させていない(被告方の他の者が他の日時に本件犬を運動させていることを認めるに足りる証拠はない)とすると、運動量が不足がちであつたものというべきであるから、かくては、本件犬が欲求不満になつて神経過敏状態にあつたことが推認するに難くないので、時には、見知らぬ親しくない訪問客に対し興奮して危害を加えかねない状況にあつたものと容易に推測でき本件犬の飼主である被告としてもこのことは十分予見できたものと認められる。しかるに、<証拠>によれば、被告方宅地はこれと外部とを区画した塀・門などの障害物の設置はなく、他人が表道路から容易に出入できる状態にあるところ、本件犬が被告の前記供述どおり繋留されていた場合において本件犬の行動できる範囲は、訪問客が右表道路から被告方玄関口へ行くまでに進行する地域内にも及んでおり、本件犬と訪問客とを遮断する障害物は何ら設けられていなかつたばかりか、訪問客に対し本件犬に注意するよう警告を発した看板等の物も掲示されておらず、被告(又はその家族)が、本件事故当時、原告真理を含む近隣の子供らに対し、本件犬に注意してこれに近附かないよう再三伝えてこれを周知撤底させていた経緯はないことが認められる。被告は、本件犬が餌を食べていた際原告真理が本件犬に悪ふざけをして本件犬のいやがる行為をしたために前記危害を加えられたものであつて原告真理に過失があつた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。即ち、本件事故が発生した時刻は前記認定のとおり午後二時半頃であり、さらに<証拠>に記載の被告が本件事故が発生したとする位置は、被告方の玄関入口に近いばかりか繋留された本件犬がその鎖を一ぱいに引伸した位置に近い所にもあたるので、本件犬が餌を食べていたとするには時刻又は位置が不適当なものであると考えられる。成程、被告方では、本件事故当時菓子を直接子供らに小売していなかつたが、たまに近所の者に売つたことがあるので、これを以前に聞知して、近くの被告方で菓子を購入しようと出向いて行つた兄ら(前記年令の子供)に原告真理が追従したものであることは前記認定のとおりであるが、その際大人が引率して子供の行動を監視していなかつたとは云え、原告真理はすでに小学校二年生にも達しておつて兄達とも一緒に行動していたものであるから、原告真理が被告方へ出向いたこと自体については非難する余地はなく、原告真理は動物に余り恐れず、母の実家の犬とよく戯れていたことはあるものの、余り親しくない本件犬に危険をおかしてまで近附くことはむしろありえないと考えられることは前記(二)において判示のとおりであり、原告真理が被告主張の如き自招行為に及んだことを認めるに足りる的確な証拠はないのである。
(四) そうすると、いずれにしても、本件事故当時被告が本件犬の保管につき相当の注意をなしていたことは認められないというべきである。してみれば、被告の抗弁(一)の主張は採るを得ない。
三以上判示したところによれば、民法七一八条一項本文に基づき、被告は、本件犬が原告真理に加えた前記危害に因り原告らが被つた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。
四そこで、原告らの右各損害について検討する。
(一) 原告真理について
1 慰藉料
原告真理(昭和四一年一一月二三日生の女の子)が本件犬により上口唇部から鼻の下に至る切創の傷害を受けたことは前記一において認定のとおりである。そして、<証拠>によれば、原告真理は、右傷の治療のために、学校を休んで、昭和四九年一二月一四日から同五一年二月二六日までの間、小山病院、河井病院、慈恵大病院、及び常盤台外科病院にそれぞれ入、通院(但し入院は常盤台外科病院において二日間位、通院は右全病院を通じて合計一六日間位)して整形手術等(手術は二回)の治療を施され、ようやく上唇部の切創は完治して外見上確知できなくなつたが、なお、鼻と上唇部との間の切創は完全に治癒されず同部位に約一センチメートル位の線状の痕が残つていること(後遺症)、右後遺症は、一見、他人に、先天性の兎唇であると見誤られる余地がないでもないが、前記治療によつてかなり薄くなつているため、近くで凝視しなければ気づかれない程であり、成長するにつれて一層薄くなつてやがて外見上確知できないようになるものと考えられること、右後遺症によつて発声又は食物の咀しやく等につき何ら支障を来たしていないこと、被告は、本件事故直後、その妻を介して、原告真理の父母(原告陽一及び同恵美子)に対し、原告真理の治療費を支払いたいので、その金をしらして慾しい旨申し入れたが、その後原告真理の治療に手間どつてこれが終了しなかつたために右父母が右金をしらさなかつたところ、被告は、右治療費も支払わず、見舞もせず、その間に原告真理の右父母が他人を介する等して被告と本件の損害賠償につき交渉しようとしたが、被告は仕事が忙しいことを理由に誠意ある応待をなさず、今日に至つていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。なお、被告は、本件事故発生については原告真理にも過失があつた旨主張するが、これを認め得ないことは前記二の(三)において説示のとおりである。以上認定の諸般の事情を総合勘案すると、原告真理が本件犬から受けた前記傷害により多大の精神的苦痛を受けたことは推認するに難くなく、その慰藉料は金七〇万円をもつて相当と認める。
2 弁護士謝金
弁論の全趣旨によれば、原告真理(親権者の原告陽一及び恵美子が代理)が請求の原因(二)の1の(2)記載のとおり本訴の提起を弁護士に委任して謝金の支払いを約したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。前記認定の慰藉料認容額等を斟酌すると、右謝金の損害のうち金七万円だけを被告に賠償さすを相当と認める。
(二) 原告陽一
1 慰藉料
原告真理が原告陽一と原告恵美子との夫妻の長女(一女)であることは当事者間に争いがないので、本件犬によつて原告真理が前記傷害を受けたことにつき、右夫妻が父母として一人娘の原告真理の身を案じその将来を憂慮して心痛したであろうことは推認するに難くない。しかし、傷害を受けた被害者の近親者の精神的苦痛は、通常、被害者が慰藉料の支払いを受けることにより鎮静されるものと考えられるばかりか民法七一一条は生命侵害の場合に限つて一定の近親者に慰藉料請求権を認めたにすぎないものと解されるので、被害者の身体傷害によりその近親者が被害者死亡の場合と比肩すべき程の重大な苦痛を受けた場合においてのみ、民法七一〇条を準用して右近親者にも、慰藉料請求権を認め、その場合以外は右請求権を認めないと解するを相当とする。そこで、右の見地に立脚して本件を見るに、原告真理が受けた傷害の程度は前記一及び四の(一)の1において認定のとおりであるから、この場合、原告陽一が原告真理の右傷害により同原告の死亡の場合と比肩すべき程の重大な苦痛を受けたものとは到底認め得ない。
そうすると、原告陽一の被告に対する慰藉料の請求は認められない。
2 治療費等
<証拠>によれば、原告陽一が未成年者の原告真理の扶養義務者(父親)として、前記四の(一)の1において認定の原告真理の入・通院により治療につき少なくとも請求の原因(二)の2の(2)のイないしニ記載の各金員の支出を余儀なくされたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。しかし、右支出金のうち、入院雑費金四三〇〇円を除くその余は応分のものと認め得るが、右入院雑費金は前記四の(一)の1において認定の入院期間(二日間位)に比し高額すぎるものと認められるから、このうち金八〇〇円をもつて応分なものと認める。右応分なものと認められる支出金合計金五万六一八一円は、本件犬が原告真理になした前記危害と相当因果関係がある原告陽一の損害であるものと認められる。
3 本件損害賠償請求費用
<証拠>によれば、原告陽一は原告らの被告に対する本件損害賠償請求訴訟(本訴)を提起するため(訴訟外の示談交渉のためではない)に、原告真理の親権者たることを証する資格証明書用として原告らの戸籍謄本を入手してその費用金四二〇円を東京都練馬区長に納入し、右謄本は当裁判所に本訴状とともに提出され、さらに、原告陽一は、右訴訟の証拠として提出するため、前記小山病院及び常盤台外科病院(いずれも私立)から原告真理の診断書の交付を受けて昭和五一年三月頃その費用合計金二〇〇〇円を支払い、本訴においてこれを甲第一号証及び第三号証としてその各写を提出して証拠調べの申請をし、ついで、原告真理の写真の作成を訴外有限会社タイセイ写真館に依頼してこれを作成してもらつて昭和五一年九月頃その写真代(焼増料)金九〇〇〇円を右訴外会社に支払つたが、原告らがこれをそのまま甲第四号証の一ないし三として本訴において当裁判所に提出してその証拠調の申請をしていることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。ところで、右戸籍謄本の交付に要した費用は、原告真理と被告との間の本訴の訴訟費用負担の裁判(これに基づく訴訟費用額確定決定)においてその負担者が決定されるべきもの(民事訴訟費用等に関する法律二条八号参照)であるから、これについて、原告陽一において別途に被告に対しその支払いの請求をなし得ないものというべきである。さらに、右写真代(焼増料)はそのまま本訴の訴訟費用とはならないが、右写真を貼付した台紙の書記料に引き直して認定する費用について、原告らと被告との間の本訴の訴訟費用負担の裁判(これに基づく訴訟費用額確定決定)においてその負担者が決定される(民事訴訟費用等に関する法律第二条六号、同規則二条一項参照)ので(従つて、右によりいわば、右写真代に代る費用の負担者が決定せられる)、原告陽一において右写真代について別途に被告に対しその支払いの請求をなし得ないものと解するを相当とする。しかし、前記診断書の入手に要した費用金二〇〇〇円は、本訴の訴訟費用負担の裁判においてその負担者が決定せられないものであり、原告陽一が本訴の証拠とするため右診断書を入手したのは止むを得ない措置であつたというべきであるから、右支出金二〇〇〇円の損害は本件犬が原告真理に対しなした前記危害と相当因果関係のある原告陽一の損害であるものと認められる。
4 なお、被告主張の過失相殺の主張が理由がないことは前記二の(三)において説示のとおりである。
5 弁護士謝金
弁論の全趣旨によれば、原告陽一が請求の原因(二)の2の(4)記載のとおり本訴の提起を弁護士に委任して謝金の支払いを約したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。前記2及び3において判示の認容額等を斟酌すると、右謝金の損害のうち金一万円だけを被告に賠償さすを相当と認める。
(三) 原告恵美子
1 慰藉料
前記(二)の1において説示のとおり、右原告の慰藉料の請求は理由がない。
2 弁護士謝金
右原告の慰藉料の請求が認容されないかぎり、右原告の弁護士謝金の損害は認めるに由ない。
五以上の次第で、被告は、原告真理に対し、前記四の(一)の1及び2の損害金合計金七七万円及び内前記四の(一)の1の損害金七〇万円に対する本件記録上明らかな本訴状が被告に送達された日の翌日の昭和五一年一一月一五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害を支払う義務があり、さらに原告陽一に対し前記四の(二)の2ないし4において認容の損害金合計金六万八一九一円及び内前記四の(二)の2及び3において認容の損害金五万八一八一円に対する右同様の昭和五一年一一月一五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものといわなければならない。
六よつて、原告真理及び陽一の各請求は、それぞれ右五において判示の限度において理由があるからこの部分を認容して、その余を失当として棄却し、原告恵美子の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(山崎末記)